LSOによるラリー救急救命活動モデル案<FRO-R>の概要
<FRO-Rとは>
 First Rescue Operation for Rallyの略。本年より全日本GT選手権では、テスト、予選、決勝のすべての段階でLSOによるFRO(First Rescue Operation)チームが待機し、救急救命活動を行っている。FRO-Rは、この実績をもとに、ラリーにおける同様の活動の一例として提案されたもの。

1.救命のポイント

 「クルマはダメでもドライバーの命だけはなんとか助けたい」
(1)迅速、確実な救助(消火、固定、救出)
  ・GTの場合は出火することが多く、ドライバーが燃えないうちに救出することが肝要となる。
  ・脊椎損傷していることが多いので、ドライバーは見たところ大丈夫であっても(例えば口をきいていたりしても)
   安易に引き出さない。ただし、出火している場合はドライバーを引き出すことを優先する。
(2)迅速な救命医療開始(死亡を食い止める)
  ・できるだけ早く医師の管理下に置くことが肝要。
(3)搬送経路の確保(1時間以内)
  ・死ぬか生きるかは、1時間以内に手術が開始できるかどうかにかかる。理論的な裏付けは未だないが、世界的に
   経験値として「1時間」が生存率に有意な差を生じさせる分岐点として認識されている。
  ・それ故に、F1では事故発生後1時間以内に手術が開始できる施設への搬送シミュレーションを、2ヶ所以上について
   用意しておくことが義務付けられている。
 *ただし、<救助チームの安全確保が最重要>ということは忘れてはならない。
2.FRO-Rカー
(1)車両仕様
  ・ラリーコース(林道など)をラリーカーと同様の速度で走行可能な車両
   -ラリーコースをラリードライバーと同様のスピードで運転できるドライバーが必要。
  ・スタックせず、牽引能力が高い4WD車
  ・次項以下に挙げる救命機材を搭載でき、乗員3名と負傷者が乗れる、乗用車タイプのワゴン車
   -GTではトヨタカルディナ4WDターボワゴンとニッサンステージア4WDターボワゴンが使用されているが、ラリーでは
    もう少し最低地上高が高く車室の広い車両のほうが良いのではないか(たとえばスバルフォレスターなど)とのこと。
  ・無線を搭載していること
   -GTでは待機時にFROカーにレースの映像が入るようにし、事故現場のおおよその状況を、待機しているFROチームも把握できるようになっている。
(2)救出・固定に必要なおもな器材
  ・頚椎カラー
  ・KED(乗車状態で脊椎を固定できる器具)
  ・耐火ブランケット(ノーメックスシート)
   -窓ガラスを割るときや、火焔を避けるときなど、ドライバーに被せる。
  ・ポンチ(ガラス破砕具:合わせガラスを切ることができるものが必要)
  ・ベルトカッター(シートベルト、ヘルメットのひもを切る)
  ・担架など搬送具一式
  ・救出用ウエア(グローブ、ヘルメット、安全靴など)および感染防止キット(グローブ、ゴーグルなど)
  ・ロープ類
(3)ドクターキット
  <FRO、救急車、メディカルセンター、ヘリなどそれぞれに何が装備されているかのリストが必要>
  ・エアウェイ
  ・バッグマスク
  ・酸素(10リッター/分以上)
  ・気管挿管セット(まず呼吸管理が必要)
  ・薬剤(沈静・筋弛緩に必要な点滴セット、麻酔薬、筋弛緩薬、エピネフリンなど)
  ・吸引器一式
  ・甲状輪状靭帯切開キット
  ・外傷キット(開放性気胸の被覆、止血ガーゼ、絆創膏など)
  ・ショックパンツ(出血が多いときに、一時的に圧迫を加えて失血性ショックを防ぐもの):現FROには搭載されていない。
(4)消火機材
  ・フォーム式(20型6リッター)x2本:油火災用
  ・CO2式(3.2kg)x1本:コクピット初期消火用、ドライバーにかけてもよい
  ・予備の消火器(各1本):予備は使用しない
   -ラリーの場合、森林火災の可能性もあるので、車両の消火に必要なフォーム式を2本とした。
    GTでFROが装備しているのは、フォーム式1本、CO2式2本となっている。
  ・耐火服、グローブ、マスク、ゴーグル、ヘルメット
3.FRO-Rチーム
<ドライバー、救急医師、レスキュー、ファイヤファイターから成る。ラリーの場合は、搭載機材が多いため、レスキューとファイヤファイターを兼任にして乗員を3名としたほうがよいかもしれない。>
役割
要求される能力
ドライバー
・FRO-Rカーの安全、迅速な運転
・無線連絡
・救出、固定、搬送アシスト
・事故現場のマネジメント
・国内トップクラスで経験豊富なラリードライバー
・負傷ドライバーおよび他の参加ドライバーに信頼されている
・緊急車両の進入、停車位置などを熟知している
・事故現場でラリー車両の誘導ができる
・無線を使用できる
救急医師
・負傷者数、損傷部位、重傷度の確認
・救出現場の指揮
・負傷者の救出および初期治療
・Load and Goの判定、搬送方法の
勧告(救急車への引継ぎ)
・患者搬送車への同乗(必要な場合)
・外傷初期救急能力を備えている
・モータースポーツによる外傷(特にハイスピード、
高エネルギー事故)を熟知している
・ラリーカーからの救出方法を熟知している
・ドライバー、チームからの信頼を得ている
レスキュー
・救出器材の現場搬送
・負傷ドライバーへのアプローチ
・ヘルメット脱装(医師と共に)
・固定具装着と救出作業
・救命処置のアシスト
・現場救出、救急活動のスペシャリスト
・ラリーカーの構造、メカニズムを熟知している
・ラリーカーからの救出に熟練している
・医師の救命処置を補助できる
ファイヤファイター
・消火器の搬送および初期消火
・ドライバー救出時の消火待機
・消火活動の現場指揮
・救出活動のアシスト
・車両火災の初期消火技術に優れている
・消火のプロフェッショナル
・ドライバーの万一の火災から保護する
・ラリーカーの構造を熟知している
・消火作業の現場を指揮できる
<補足>
* 赤旗→レース中断を待っていると出動タイミングがそれだけ遅れる。早い対応が効果的なので、GTのFROカーは、赤旗が出る前にコースインできることになっている。事故があるとコントロールタワーからFROに指令が行き、他のドライバーが事故に気付く以前に出動できる。そのため、FROカーはプロのレーシングドライバー(星野薫)が専任でそのドライバーを務め、レースカーと同じ走行ラインをレースカーに混じって走り、現場に到達する。FROカーがコースに入ると、レースカーはその走行を妨げないよう進路を譲らなければならない。
* FROはチームワークが大事なので、GTでは常に同じ4名がチームとなっている。また、サーキットの協力も重要なので、事前に現地での打ち合わせが必要。
* 事前に、どこの病院はどういう負傷に対応できるかを把握しておき、それら病院の了解を得ておくことが望ましい。そのうえで、救急医師は、救急車に引き継ぐときに、どこの病院に搬送するかを具体的に指示するのがよい。医師の指示があり、病院側も受け入れる用意があると聞けば、救急車も迷いなくその病院に直行できる。
* 大事なことは、できるだけ早く異常事態の情報を得て行動を開始すること、また、病院に入れるまでにどのくらい時間がかかるのかをシミュレーションして把握しておくこと。前述のように、その時間は1時間以内であることが望ましいが、ラリーの場合は難しいかもしれない。(FIAの安全規定では、ラリーの場合は1時間30分以内とされている。)

FRO-R費用見積
イニシャルコスト
費用項目
摘要
単価
数量
金額
車両代
高速4WDワゴン
改造費
足回りなど
架装(器材固定用)
フラッシュランプ
ドクターキット
酸素器材
150,000
1
150,000
蘇生用器具
100,000
1
100,000
外傷治療用具
50,000
1
50,000
医薬品
救出用具
バックボード
60,000
1
60,000
ヘッドブロック
25,000
1
25,000
ストラップ
28,000
1
28,000
KED
70,000
1
70,000
頚椎カラー
4,800
3
14,400
耐火ブランケット
10,000
1
10,000
スプリント類
20,000
1
20,000
グラスマスター
20,000
1
20,000
牽引ロープ
5,000
2
10,000
その他ロープ類
5,000
1
5,000
消火用具
フォーム20型
22,000
3
66,000
CO2 3.2kg
27,000
2
54,000
LSO年会費
賛助会員2口
100,000
2
200,000
ランニングコスト
(1回あたり)
運営費
LSO
100,000
1
100,000
人件費(1日)
オフィサー
25,000
2
50,000
ドライバー
50,000
2
100,000
ドクター
50,000
2
100,000
レスキュー/Fire
25,000
2
50,000
出張費
交通費
宿泊費
食費
車両
保管費用
メンテナンス費
修理、補修
輸送費
器材
医薬品補充
消化剤詰め替え
破損品の補充

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