伝説のモントレーが復活
奴田原文雄が猛暑のバトルを制し今季2勝目

開催日時:7月27日(金)〜29日(日)
開催場所:群馬県渋川市周辺
スペシャルステージ本数:13本
スペシャルステージ総距離:68.234km
ラリー総距離:2デイ3セクション299.502km
SS路面:ターマック(舗装路)
SS路面状況:ドライ
ポイント係数:1.0

ラリー概要

「伝説のモントレー」が、9年ぶりに全日本ラリーに復活した。かつては、群馬県の林道を知り尽くしている”群スペ”と呼ばれる地元のドライバーたちが全日本レギュラー陣を脅かしたことでもおなじみのモントレーは、過去には数々の名勝負が繰り広げられてきた。

開幕戦以来のターマックラリーとなる今大会は、シリーズタイトルの行方を占う上でも重要な1戦だ。ポイント係数的には第7戦のラリー北海道が最も獲得ポイントが高いが、シリーズを優位に戦うためには、この第5戦以降のターマック2連戦でいかにポイントを取りこぼすことなく獲得するかが重要となる。ラリーベースとなった渋川市総合公園には、51台のマシンが集結した。

また、金曜日のドライバーズブリーフィング後には、JRCA選手部会の呼びかけにより救命救急講習会が行われた。ラリーという競技性から、アクシデントが起きた場合のファーストレスキューは、オフィシャルだけではなく選手間でも基本的な蘇生法などを会得しておく必要性がある。JRCA選手部会では、今後も救命救急講習会を開催していく予定だ。

ラリーは、榛名、赤城、深山の各林道SSと渋川市総合公園内の特設ステージを組み合わせたコンパクトな設定だが、ほとんどのステージが全日本では初めて使用することに加え、それぞれのステージが異なるキャラクターを持っているため、いかに正確にペースノートを作るかが大きな鍵となる。

副競技長としてオフィシャルを務める新井敏弘は、「Harunaは道幅が広い高速コーナーが続くのでランサー向きのステージだし、逆にMiyamaはコーナーの先が深いロングコーナーが続くツイスティなステージなのでインプレッサが有利だと思う。ギャラリーステージは距離が400mと短いけど、ワンミスは大きなタイム差となるために絶対ミスが許されないステージ。問題はAkagiで、ここは滑りやすい路面なので、突発的な挙動にどう対処するか、ラリーに必要なテクニックが試されるようなステージになっている。ここはコーナーというよりも路面的に難しいので、距離は他の林道ステージよりも短いけれど、今回最も難しい勝負所になるんじゃないかな」と各ステージを解説。その言葉通り、ラリーは赤城のステージを中心に壮絶なサバイバル戦となり、数々のドラマを生むステージともなった。

また、ギャラリーステージが設置された渋川市総合公園内には、サービスパークのほかに渋川市や伊香保温泉、さらには自動車関連企業がブースを出展した「渋川・伊香保ラリーパーク」が設けられ、連日35度を超える猛暑にもかかわらず、約2万人(主催者発表)の観客が一日中ラリーを楽しんだ。

JN4クラス

オープニングステージのSS1「Haruna-1」(4.81km)は、奴田原文雄/佐藤忠宜組がベストタイム、0.8秒遅れて石田正史/草加浩平組が2番時計と、ランサーエボX勢がトップタイムを奪う。インプレッサ勢は、柳澤宏至/中原祥雅組が奴田原から2.1秒遅れの3番手、勝田範彦/足立さやか組が3.2秒差の4番手と、明確なタイム差が出た。0.1秒を巡る攻防戦となったギャラリーステージのSS2「Sibukawa Park R-1](0.397km)は、奴田原、石田、柳澤とも同タイムだったが、勝田はベストタイムを奪った大西康弘/市野諮組(三菱ランサーエボリューションX)から1秒遅れと精彩を欠く。

新井が「インプレッサに有利」と語ったSS3「Miyama-1」(12.128km)では勝田がこの日初となるベストタイムを奪うが、奴田原も0.8秒遅れと譲らない。SS2まで2番手につけていた石田は痛恨のスピンで30秒近くロスしてしまい、9番手まで順位を下げてしまった。

これで2番手に浮上した勝田だが、続くSS4は「ランサー有利」の「Haruna-2」。奴田原がこの日2回目のベストタイムをマークし、両者のタイム差はさらに拡大。SS5のギャラリーステージを終えた時点で7.2秒差にまで広がった。

セクション1を終えたサービスで「特にマシンに問題があるというわけじゃなく、ドライビングもいつも通り。なぜこれだけタイム差がつくのか、ちょっと理解できない」という勝田は、セクション2のオープニングステージとなるSS6「Akagi-1」(6.90km)で奴田原に6.4秒差をつけるタイムをたたき出し、トータルで0.8秒差と一気に挽回してくる。さらに続くSS7は、インプレッサ有利のMiyama-2」。ここでこの日初のベストタイムをたたき出した勝田は、ついに奴田原を3.2秒逆転し、トップに立った。

続くSS8「Haruna R-1」(9.28km)は奴田原がベストタイムを奪うが、デイ1は勝田が奴田原に対し0.8秒差で首位の座を守りきり折り返した。3番手には、SS3のスピンで一時は9番手まで落ちた石田が浮上、その石田から4.3秒差の4番手に柳澤というオーダーだ。

迎えたデイ2。ステージは「Haruna R」が1本、「Akagi」が1本、ギャラリーステージが2本という設定だ。当然、奴田原陣営は「Haruna」で勝負、勝田陣営は約7秒ものビハインドを一気に返した「Akagi」が勝負所となる展開だ。

その予想通り、SS10「Haruna R-2」で奴田原がベストタイムを奪い、勝田に対し1.9秒差をつけトップの座を奪い返す。その差はSS11のギャラリーステージを終えて3.2秒差まで拡大するが、勝田にとってはそれでもまだ奴田原との差は射程圏内のはずだった。だが、SS12「Akagi-2」で奴田原が勝田に対し3.0秒差をつけるタイムをたたき出し、逆にタイム差を6.2秒差にまで拡大することに成功。ここで勝負は決した。
「実はデイ1のAkagiは、ジャンクションをオーバーシュートしてしまい、10秒近くタイムロスしていたんだ。だから、逆にしっかりと走りきれば負けることはないと思っていた」と奴田原。第3戦福島では3位、第4戦洞爺では4位と、得意なはずのグラベルラリーで精彩を欠いていたが、”復活”を予感させる会心の走りでターマック2連戦の緒戦を制した。

また、2番手でフィニッシュした勝田だったが、セレモニアルフィニッシュに向かう最終TC前で6分の早着ペナルティを受けてしまい10位に転落。代わって石田が2位、柳澤が3位へとそれぞれ繰り上がり入賞となった。これでシリーズポイントは、勝田70ポイント、奴田原64.5ポイント、柳澤59ポイントと肉薄。勝田としては痛恨のペナルティとなり、シリーズ後半に向けチャンピオン争いは、さらに混沌となる結果となった。

JN3クラス

シリーズランキングトップの村田康介がこのラリーをスキップしたため、シリーズ2番手以降の選手にとっては、なんとしてもこのラリーでポイント差を縮めておきたいところだ。

ところが、第3戦優勝の上原利宏/佐瀬拓野組(ホンダ・シビック)がSS1でクラッシュ、さらにシリーズランキング2位の山口清司/島津雅彦組(トヨタ・カローラレビン)がSS3の赤城でオーバーヒートとなりリタイア、ターマックラリーでは圧倒的な速さを誇る眞貝知志/漆戸あゆみ組(ホンダ・インテグラ)もSS3でコースアウトしデイ離脱と、シリーズランキング上位の選手が次々とリザルトから消えていく。

これで三好秀昌/保井隆宏組のトヨタ86がトップに立ち、全日本ラリーでの86の初優勝に期待が集まったが、その三好もSS8で駆動系トラブルのため戦線離脱と、サバイバル戦の様相となった。

三好のリタイアにより、SS7とSS8で連続ベストをマークした松本琢史/三谷良一組(ロータス・エキシージ)がトップに浮上し、デイ1を折り返した。

続くデイ2は、2番手に付けていた青柳勉/箕作裕子組(ホンダ・インテグラ)が猛チャージを開始。SS10でトップを奪還した青柳は、その後もペースを落とすことなく快走し、全日本初優勝という大金星を挙げた。「全日本は7年ぶり3回目、しかもターマックは今回が初めてです」という青柳は、「無欲の勝利です。なによりも”モントレー”で勝てたことがうれしい」と、伝説のラリーにその名を刻んだ。

2位には松本のエキシージが入賞。3位は、最終SSまで濱井義郎/白水順一組がしっかりとポジションをキープしていたが、フィニッシュ手前約100mでドライブシャフトが折れ、まさかのリタイア。これで筒井克彦/永山総一郎組(トヨタ86)が3位表彰台を獲得した。

JN2クラス

JN2クラスは、序盤からランキングトップの川名賢/小坂典嵩組(トヨタ・ヴィッツRS)と岡田孝一/石田裕一組(マツダ・デミオ)のマッチレースとなった。ランキングはトップながらも、いまだ勝ち星のない川名にとっては、1戦でも早く全日本初優勝を獲得したいところ。だが、ベテランの岡田はその川名を完全に抑えきり、総合でもJN3クラストップを上まわる11位という好成績で、JN2クラス移籍後の初優勝を飾った。

実は全日本ダートラと兼用で使用しているこのデミオは、ラリーの時だけクロスミッションとサスペンションを変更するという仕様だ。「開幕戦でタイヤをうまく使えていなかったので、今回はアライメントをきっちりと合わせてきた。タイヤの減り方も均等になって、見違えるように速くなったよ」と岡田。若手とベテランがひしめき合うJN2クラスの中で、またひとり驚異のドライバーがタイトル争いに名乗りを上げてきた。

一方、3位に終わったディフェンディングチャンピオンの天野智之/井上裕紀子組(トヨタ・ヴィッツG’s RS)は、「今回は上りがきついSSでのタイム差が大きすぎた。上りのSS1本で19秒負けというあり得ない結果ですから。走りがどうとかいう次元ではなく、車重が違いすぎるというのはもう手の打ちようがない」と、今回は完全に白旗状態となってしまった。

JN1クラス

今年は全戦で成立しているJN1クラスは、シリーズランキングトップの葛西一省/安田弘美組(ダイハツ・ストーリア)がデイ1をトップで折り返した。

だが、デイ2はストーリアx4を駆る篠原正行/馬瀬耕平組が逆襲。NAエンジンのFFストーリアVSターボエンジンの4WDストーリアのリトル対決は、パワーに勝る4WDストーリアの篠原に軍配。「九州から1000km以上走ってきた甲斐があった(笑)」と、うれしい全日本初優勝を飾った。2位には葛西が入りシリーズランキングトップの座を死守。3位には開幕戦優勝の小泉茂/小泉由起組(ニッサン・マーチSR)が入賞した。

総合結果

出走51台/完走37台

順位 クラス ドライバー/コ・ドライバー 車名 タイム
1 JN4-1 奴田原文雄/佐藤忠宜 ADVAN-PIAAランサー 52:14.9
2 JN4-2 石田正史/草加浩平 DL TEIN MARCHEランサー 52:48.3
3 JN4-3 柳澤宏至/中原祥雅 CUSCO ADVAN WRX-STI 52:58.6
4 JN4-4 高山 仁/河野洋志 DL☆OF☆MOTY’s☆ハセプロランサー 53:03.7
5 JN4-5 大西 康弘/市野 諮 ADVAN-PIAA 大西ランサー 53:26.8
6 JN4-6 炭山裕矢/加勢直穀 CUSCO ADVAN LANCER 53:32.4
10 JN2-1 岡田孝一/石田裕一 キーストーンナビゲーターDLワンズデミオ 56:11.1
12 JN3-1 青柳 勉/箕作裕子 安斉自工小日向自動車スペシャルインテグラ 56:36.4
26 JN1-1 篠原正行/馬瀬耕平 ヨコハマ、keepストーリアX4 1:00:52.3

注)JN4クラスは3000ccを超える車両、JN3は1500ccを超え3000cc以下の車両、JN2は1400ccを超え1500cc以下の車両、JN1は1400cc以下の車両(過給器つき車両は排気量×1.7で換算)

参考総合結果表: 2012_rd05(Excel) 2012_rd05(PDF)

ご注意:ここに掲載の本レポートおよび結果表等はJRCAが独自に取材、入手したものでJAF公式発表のものではありません。従ってJRCA以外から発表されるそれらのものと若干異なる場合や誤りのある場合もありますので、あらかじめご了承のうえ参考資料としてご覧ください。

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